新しい恋
その次に彼ができたのは、大学三年生に進級してからだった。塚原好晴君と言って、同じ大学の同じ学部の学生。
地方から出てきて、東京で一人暮らし。なかなか仲良くなるきっかけはなかったけれど、ゼミの飲み会で隣同士になったのがきっかけになった。
今まで何とも思っていなかった人だけど、仲良くなって話すようになったらかなり気の合う人だった。好きな映画も同じ、本の好みも同じ、何より食べたいものが一致するのが大きかった。
「静ちゃん、俺と付き合わない?」
そうやって言われたのは、二人で出かけるようになって三回目のことだった。映画を見た帰り、公園のベンチ。わたしたちと違って、ほかのベンチに座っている男女の二人連れはもっと密着している。
「……ごめんなさい……わたし、それはできない……」
出かけるのは楽しかったけれど、そこにあるのはただの友情だった。付き合う、と言われてもそれはできない。
「なぜ?」
「だって、そろそろ就職活動も始めないといけないし、そんな暇なんてないでしょう?」
そうは言ったけれど、本音は違った。直哉以外は好きになれない――だとしたら洋司君と同じことを繰り返すことになる。
「知っているよ。洋司先輩からいろいろ聞いてたし」
わたしが目を見張ると、好晴君は笑った。
「あまりいい相手じゃないんだろ? 静ちゃんを見ていればわかるよ」
わたしはそんなに不幸そうな顔をしていた? 沈み込むわたしの手を、好晴君はとって握りしめた。
「そいつのこと、俺が忘れさせてやる。だから、俺と付き合ってください」
彼はこんなわたしのどこが好きになったんだろう。そんなに美人でもないし、目立つ存在でもないのに。
けれど、直哉のことを忘れられるのなら――それはわたしにとって魅力的な申し出だった。
「……でも」
ためらうわたしの身体に腕を回して抱きしめる。誰かに抱きしめてもらうのは、久しぶりの感覚だった。
「大丈夫、全部わかっているから」
そんな風に言われたら、弱いわたしの心はあっという間にとらえられてしまう。彼の申し出を受け入れるまで長い時間はかからなかった。
◆ ◆ ◆
好晴君の時は、最初から驕っていたと思う。
相手はわたしが彼のことなんて好きじゃないってわかっていても、付き合いたいと言ってくれるのだから。
洋司君の時よりわたしはわがままな彼女になっていた。自分のわがままで相手を振り回して。
この頃には寮の門限をうまく破る方法も身につけていたから、好晴君の家に朝まで泊まることもしょっちゅうだった。
彼の住んでいるのは学生向けのアパート。壁が薄くて、あまり大きな声を出すと隣の部屋に迷惑がかかってしまう。お互い様と言うべきか、隣の部屋の声が聞こえてくることもあったけれど。
まだ続けている塾講師のアルバイトを追えたわたしは、次の日が休みなのをいいことに彼の部屋に転がりこんでいた。
「静ちゃん、何食べたい?」
「オムライス!」
洋司君は料理が得意で、きちんと自炊していた。栄養のバランスもそれなりに考えていたみたいで、オムライスにはきちんとサラダとスープも添えられている。
「おいしい」
わたしはオムライスにスプーンを差し入れる。卵はふわふわで、割ると半熟の卵がとろりと流れた。
今日は鶏肉がなかったらしくて、中に入っていたのはベーコンのケチャップライス。それの味付けもちょうどよくて、あっという間に全部食べてしまった。
「今度は静ちゃんの料理が食べたいな」
好晴君は、わたしの背中側から抱きついてきて、背中に顔をぴったりとくっつける。「わたしが料理上手じゃないって知ってるくせに」
家を出るまでろくに料理をしたことはなかったし、寮も三食付だ。だから自炊をする必要なんてぜんぜんなくて、包丁をちゃんと持つこともできない。
「それでもいいから食べたい」
「ちょっと、やだ、くすぐったい」
背中側からお腹に回っていた手がちょっとずつ下から上ってくる。お腹から胸までたどりついて、下着の線に沿ってゆっくりと撫で始めた。
「ん……あっ……やめ、て……」
彼の家に初めて泊まった時には、あまり緊張しないですんだ。自分が好きじゃない相手と付き合っているからなのかもしれない。
一度受け入れてしまえば、後は簡単だった。普通にデートして出かけて、彼の家に泊まるだけ。泊まったなら、やることは一つ。
「……静」
そのまま床に押し倒される。あっという間に好晴君が上に来て、唇と唇でキスをした。ちゅっと音がして、わたしはくすくすと笑う。
「こら、笑うところじゃないよ」
「……ごめん……」
唇を割って舌が入ってくる。口内をあちこちかき回すから、わたしもめちゃめちゃに舌を絡め返した。
身体が熱くなって、その先が欲しくなる。彼のシャツに手をかけてボタンを外した。
「まだ、片づけしてないだろ?」
テーブルの上には食べ終えた食器が残ったまま。彼の視線がそちらに向かう。
「いいじゃない。片づけはあとでやればいいでしょ――好晴君が」
ちゅっと、もう一度音をたててキスをする。膝を曲げて腿を持ち上げると、硬くなったものが腿にあたった。腿を左右に動かして刺激してやると、それはさらに硬度を増す。
「……好晴君だってしたいくせに、そうでしょ?」
唇を尖らせると、好晴君の目に欲望が浮かぶ。
自分が彼に影響力を持っているのだと思うとぞくぞくした。直哉にはこんな影響を及ぼすことはできない。いつも翻弄されるのはわたしの方。
「本当に後かたづけしてくれる?」
「もちろん」
会話している間に、彼のシャツのボタンは全部外し終えていた。それを肩から滑り落とす。
「ベッドに行こう」
手を貸して、好晴君はわたしを起き上がらせてくれる。そのまま立つのかと思ったら、今後は前から背中に腕を回して抱きしめられた。
「……好きだよ」
「……ありがと」
彼の気持ちに、同じだけを返すことはできなかった。
やっぱり、わたしの中には直哉が居座っている。好晴君とこうしている時に直哉のことを思い出すのは失礼だと思ったから、強引に頭から追い払った。
わたしのシャツのボタンが一つずつ外されていく。シャツを脱がされたら、そのまま下着とまとめて強引に脱がされた。
彼の目の前に、剥き出しになった胸が晒される。柔らかな膨らみを、彼は左右から持ち上げた。
「少し大きくなった?」
「何で?」
「俺がいっぱい揉んだから」
「……ん、もう。そんなこと言わないでよ」
小さく笑うと、好晴君は胸に顔を寄せる。彼が何をしてくれるのか期待して、胸の鼓動が跳ね上がる。
「んっ……ん、あぁ……」
音を立てて吸いつかれて、あっという間に乳首が硬くなる。唇に含まれていない方の乳首は、指先でこりこりと転がされていた。
「あぅ……ここじゃ、や、だ……!」
膝立ちになったまま、時間をかけて胸を愛撫される。足に力が入らなくなって腰を落としたくても許されずに、好晴君の腕に体重を預けて快感を貪る。
慌ただしく着ているものを脱がされて、わたしも待ちきれないって勢いで好晴君の着ているものを脱がせる。
「今日は、静が上」
「……見るのはなし!」
口調だけは強かったけれど、身体の方はぐずぐずに蕩けている。床に座った好晴君をまたぐようにして、右手を彼の肩に置く。左手で下を探って、熱を持った彼自身を見つけ出した。
指先で避妊具をちゃんと付けてくれていることを確認し、左手で支えて腰を落としていく。
「……はぁっ……う、うぅ……」
すぐ側に彼の顔がある。挿入の瞬間、眉の寄った顔を見られるのは恥ずかしい。――けれど。
「……好きだよ」
彼がそう言ってくれる。だからわたしも自分の欲望を忠実に彼に見せつける。
だって、彼に返せるものってそのくらいしかないから。
地方から出てきて、東京で一人暮らし。なかなか仲良くなるきっかけはなかったけれど、ゼミの飲み会で隣同士になったのがきっかけになった。
今まで何とも思っていなかった人だけど、仲良くなって話すようになったらかなり気の合う人だった。好きな映画も同じ、本の好みも同じ、何より食べたいものが一致するのが大きかった。
「静ちゃん、俺と付き合わない?」
そうやって言われたのは、二人で出かけるようになって三回目のことだった。映画を見た帰り、公園のベンチ。わたしたちと違って、ほかのベンチに座っている男女の二人連れはもっと密着している。
「……ごめんなさい……わたし、それはできない……」
出かけるのは楽しかったけれど、そこにあるのはただの友情だった。付き合う、と言われてもそれはできない。
「なぜ?」
「だって、そろそろ就職活動も始めないといけないし、そんな暇なんてないでしょう?」
そうは言ったけれど、本音は違った。直哉以外は好きになれない――だとしたら洋司君と同じことを繰り返すことになる。
「知っているよ。洋司先輩からいろいろ聞いてたし」
わたしが目を見張ると、好晴君は笑った。
「あまりいい相手じゃないんだろ? 静ちゃんを見ていればわかるよ」
わたしはそんなに不幸そうな顔をしていた? 沈み込むわたしの手を、好晴君はとって握りしめた。
「そいつのこと、俺が忘れさせてやる。だから、俺と付き合ってください」
彼はこんなわたしのどこが好きになったんだろう。そんなに美人でもないし、目立つ存在でもないのに。
けれど、直哉のことを忘れられるのなら――それはわたしにとって魅力的な申し出だった。
「……でも」
ためらうわたしの身体に腕を回して抱きしめる。誰かに抱きしめてもらうのは、久しぶりの感覚だった。
「大丈夫、全部わかっているから」
そんな風に言われたら、弱いわたしの心はあっという間にとらえられてしまう。彼の申し出を受け入れるまで長い時間はかからなかった。
◆ ◆ ◆
好晴君の時は、最初から驕っていたと思う。
相手はわたしが彼のことなんて好きじゃないってわかっていても、付き合いたいと言ってくれるのだから。
洋司君の時よりわたしはわがままな彼女になっていた。自分のわがままで相手を振り回して。
この頃には寮の門限をうまく破る方法も身につけていたから、好晴君の家に朝まで泊まることもしょっちゅうだった。
彼の住んでいるのは学生向けのアパート。壁が薄くて、あまり大きな声を出すと隣の部屋に迷惑がかかってしまう。お互い様と言うべきか、隣の部屋の声が聞こえてくることもあったけれど。
まだ続けている塾講師のアルバイトを追えたわたしは、次の日が休みなのをいいことに彼の部屋に転がりこんでいた。
「静ちゃん、何食べたい?」
「オムライス!」
洋司君は料理が得意で、きちんと自炊していた。栄養のバランスもそれなりに考えていたみたいで、オムライスにはきちんとサラダとスープも添えられている。
「おいしい」
わたしはオムライスにスプーンを差し入れる。卵はふわふわで、割ると半熟の卵がとろりと流れた。
今日は鶏肉がなかったらしくて、中に入っていたのはベーコンのケチャップライス。それの味付けもちょうどよくて、あっという間に全部食べてしまった。
「今度は静ちゃんの料理が食べたいな」
好晴君は、わたしの背中側から抱きついてきて、背中に顔をぴったりとくっつける。「わたしが料理上手じゃないって知ってるくせに」
家を出るまでろくに料理をしたことはなかったし、寮も三食付だ。だから自炊をする必要なんてぜんぜんなくて、包丁をちゃんと持つこともできない。
「それでもいいから食べたい」
「ちょっと、やだ、くすぐったい」
背中側からお腹に回っていた手がちょっとずつ下から上ってくる。お腹から胸までたどりついて、下着の線に沿ってゆっくりと撫で始めた。
「ん……あっ……やめ、て……」
彼の家に初めて泊まった時には、あまり緊張しないですんだ。自分が好きじゃない相手と付き合っているからなのかもしれない。
一度受け入れてしまえば、後は簡単だった。普通にデートして出かけて、彼の家に泊まるだけ。泊まったなら、やることは一つ。
「……静」
そのまま床に押し倒される。あっという間に好晴君が上に来て、唇と唇でキスをした。ちゅっと音がして、わたしはくすくすと笑う。
「こら、笑うところじゃないよ」
「……ごめん……」
唇を割って舌が入ってくる。口内をあちこちかき回すから、わたしもめちゃめちゃに舌を絡め返した。
身体が熱くなって、その先が欲しくなる。彼のシャツに手をかけてボタンを外した。
「まだ、片づけしてないだろ?」
テーブルの上には食べ終えた食器が残ったまま。彼の視線がそちらに向かう。
「いいじゃない。片づけはあとでやればいいでしょ――好晴君が」
ちゅっと、もう一度音をたててキスをする。膝を曲げて腿を持ち上げると、硬くなったものが腿にあたった。腿を左右に動かして刺激してやると、それはさらに硬度を増す。
「……好晴君だってしたいくせに、そうでしょ?」
唇を尖らせると、好晴君の目に欲望が浮かぶ。
自分が彼に影響力を持っているのだと思うとぞくぞくした。直哉にはこんな影響を及ぼすことはできない。いつも翻弄されるのはわたしの方。
「本当に後かたづけしてくれる?」
「もちろん」
会話している間に、彼のシャツのボタンは全部外し終えていた。それを肩から滑り落とす。
「ベッドに行こう」
手を貸して、好晴君はわたしを起き上がらせてくれる。そのまま立つのかと思ったら、今後は前から背中に腕を回して抱きしめられた。
「……好きだよ」
「……ありがと」
彼の気持ちに、同じだけを返すことはできなかった。
やっぱり、わたしの中には直哉が居座っている。好晴君とこうしている時に直哉のことを思い出すのは失礼だと思ったから、強引に頭から追い払った。
わたしのシャツのボタンが一つずつ外されていく。シャツを脱がされたら、そのまま下着とまとめて強引に脱がされた。
彼の目の前に、剥き出しになった胸が晒される。柔らかな膨らみを、彼は左右から持ち上げた。
「少し大きくなった?」
「何で?」
「俺がいっぱい揉んだから」
「……ん、もう。そんなこと言わないでよ」
小さく笑うと、好晴君は胸に顔を寄せる。彼が何をしてくれるのか期待して、胸の鼓動が跳ね上がる。
「んっ……ん、あぁ……」
音を立てて吸いつかれて、あっという間に乳首が硬くなる。唇に含まれていない方の乳首は、指先でこりこりと転がされていた。
「あぅ……ここじゃ、や、だ……!」
膝立ちになったまま、時間をかけて胸を愛撫される。足に力が入らなくなって腰を落としたくても許されずに、好晴君の腕に体重を預けて快感を貪る。
慌ただしく着ているものを脱がされて、わたしも待ちきれないって勢いで好晴君の着ているものを脱がせる。
「今日は、静が上」
「……見るのはなし!」
口調だけは強かったけれど、身体の方はぐずぐずに蕩けている。床に座った好晴君をまたぐようにして、右手を彼の肩に置く。左手で下を探って、熱を持った彼自身を見つけ出した。
指先で避妊具をちゃんと付けてくれていることを確認し、左手で支えて腰を落としていく。
「……はぁっ……う、うぅ……」
すぐ側に彼の顔がある。挿入の瞬間、眉の寄った顔を見られるのは恥ずかしい。――けれど。
「……好きだよ」
彼がそう言ってくれる。だからわたしも自分の欲望を忠実に彼に見せつける。
だって、彼に返せるものってそのくらいしかないから。